海事代理士になろう


第一章 海事代理士とは

1 海事代理士という仕事

海事代理士とは国が定める業務独占資格のひとつで、Wikiではこう記されています。

海事代理士は、海事代理士法に基づき他人の依頼によって、船舶登記や船舶登録、
検査申請、船員に関する労務、その他海事許認可など、海事に関する行政機関への申請、
届出その他の手続及びこれらの手続に関し書類の作成を代理・代行することを業とする者である。
1909年に創設された「海事代願人」の後身として1951年成立の海事代理士法により創設された資格。
司法書士、行政書士や社会保険労務士の海事版といえる。

また、一般社団法人日本海事代理士会ではその業務範囲を以下のように例示しています。

1.船舶に関する手続
船舶の建造、売買、相続から廃船に至るまでの登記・登録・検査・検認、
海洋環境や安全に係る国際条約による証書類の取得など

2.船員や海技資格に関する手続
船員の雇用や労働を律する船員法関係諸手続,
(例:船員手帳の交付や書換、乗組員の雇入届出や海難事故等の報告事務など)
海技士や小型船舶操縦者などの海技資格の取得や更新など

3.海上交通に関わる各種事業に関する手続
旅客船事業,船舶による貨物運送事業,港湾荷役や造船業等,各種事業の許認可・登録等の取得など

4.その他,上記に係る相談・鑑定等の業務

つまり、海に関することなら大体できるよって資格です。
造船業とか海運業とか旅客業とか船舶販売業とか。
日本は国家の存亡を輸出入に依存する海運国家ですから、こういう資格が必要なんですね。
ただ、弁護士なら(本来の職務に付随する場合は)無登録で業務が行えます。
大きな会社なら当然弁護士に頼みますよね。
よって海事代理士だけでメシが食えている人はごく僅か。
だから無名なんですね。

たとえば海事代理士の多くが「ボート免許」の更新をメインの業務としています。
小型船舶操縦者免許ってやつですね。
そのボート免許、所持者は全国に300万人。
結構多い。
更新は5年に1度ですから、年間60万件の更新があるわけです。
その約6割が自ら更新手続をしていますので、需要は24万件。
これを1200人の海事代理士で分け合うと、1人当たり200件。
1件当たりの粗利は2千円!なので、海事代理士1人当たりのシノギは40万円ということになります。
年収40マンエン。
とても生活できません。

そういう事情もあってか、兼業がほとんどです。
専業で食えてる海事代理士は全国で20名程度とすら言われています。
保険の代理店や船舶売買の仲介業を営む海事代理士も少なくありません。
船舶の仲介料は法外なので小さな漁船でも結構儲かる。
沖縄とか旅行するとこの手の海事代理士を実によく見かけます。

また、行政書士との兼業も多いです。
名詞に「行政書士・海事代理士」と書かれてることがとても多いです。
逆に「司法書士・海事代理士」はめったにいません。
難関資格の取得者にとって海事代理士なんてどうでもいいわけです。
繰り返しますが、海事代理士だけで食える人はごく僅か。
専門性はあっても仕事はほとんどない。
それが海事代理士の現実です。


2 海事代理士資格取得のメリット

ではなぜ私はみなさんに海事代理士を勧めるのでしょうか。

ひとつは、いわゆる八士業であること。
八士業とは、戸籍謄本や住民票等の書類について(職務上必要な場合に限り)、
職権によって交付を請求することが認められる八種の士業のことを指します。
弁護士、弁理士、税理士、司法書士、土地家屋調査士、社会保険労務士、行政書士、海事代理士。
なかなか凄い並びでしょう。

でも、だからといって各界からインテリとして扱われるわけではないです。
たとえば文部科学省の「高度専門職業人」には含まれません。
労働基準法における「高度な専門知識を有する者」でもありません。
でもね、弁護士の「隣接法律専門職」の一つなんですよ!
若いころから勉強ばかりで、いいことなんて何もなかった弁護士。
人としての喜びや楽しみのほとんどを犠牲にしてきた弁護士。
報われるのは僅かばかりの経済力。
でも、どんなにお金があっても青春は戻ってこない。
そんな人生台無しの弁護士が「お隣りさん」と認める資格。
それが海事代理士です。

次に、試験が簡単なことが挙げられます。
現実的なお話ですね。
制度については後述しますが、大体半分くらい受かります。
2人受けたら1人。
そう言うと難しそうですが、10人受けたら5人です。
100人いたら50人。
言ってみれば偏差値50くらいの試験です。
しかも今時珍しい絶対評価ですから、合格点に達すれば無条件で合格です。
税理士試験のような得点調整やブラックボックスなどありません。
合格点さえ取れたら合格できちゃうのです。
まるでゆとり教育。


3 海事代理士試験の現実

一方で、決して甘くない側面もあります。

まず、受験生の大半がプロ。
海事関係者や行政書士、法律事務所のスタッフです。
ナウでヤングなマブイねえちゃんが全くいないわけではないですが、
各地の試験会場で見受けるのはほとんどがどこにでもいるオッサンです。

また、記念受験とか冷やかし受験とか、そういう輩は一切いません。
それを許さないシステムだからです。
たとえば一次試験(筆記)は平日に行われます。
大体が金曜日ですかね。
試験会場は地方運輸局ですから全国に9ヵ所しかありません。
青森の人は仙台に、鹿児島の人は福岡まで行かなければならないのです。
集合は08時30分で解散が17時15分ですから、宿泊は必定。
物見遊山などありえないわけです。

二次試験(口述)は国交省の本省です。
霞ヶ関、桜田門の目の前です。
ここに全国の一次試験合格者が集うわけです。
日帰りは無理。
合格率が高いからとて、決して甘くはないんです。
全員が本気(と書いてマジと読む)モードで挑むわけですから。

次に、受験指導校は皆無に等しいです。
大原とかTACとかLECとか伊藤塾とか、
そういう銭ゲバ業者が参入する可能性は今後もないでしょう。
ユーキャンや産業能率大学ですら跨いで通ります。

でも、全くないわけではありません。
ただ、所在地が私書箱センターとかレンタルオフィスです。
まともな人間ならまず関わりを持とうとしない業者です。

また、教材は海事代理士会の出版するクソ高い過去問集しかありません。
法学書院とか有斐閣とか住宅新報社とか税務経理協会とか、
そういうアングラ業者が参入する可能性は今後もないでしょう。
成山堂書店や日本海運集会所ですら跨いで通ります。

でも、全くないわけではありません。
ただ、所在地が私書箱センターとかレンタルオフィスです。
まともな人間ならまず関わりを持とうとしない業者です。

そんなわけですから、受験はそれなりに大変です。
どれくらい大変かというと、毎日2時間勉強しても1ヶ月かかります。
筆記だけで。
一次試験たる筆記試験に受かるのに60時間もかかってしまう。
ごはんが60回も炊ける計算です。

また、二次試験たる口述試験をクリアするのに40時間も必要です。
これは船員法第六十条で規定する海員の一週間当たりの労働時間の上限に相当します。
船乗りのおっちゃんが一週間汗水垂らして働くほどの長時間。
いかに甘くないか分かるでしょう。


4 海事代理士試験の概要

ここでは試験の概要について記します。

【願書配布】
・7月第1週の月曜日から受験地を管轄する地方運輸局で(郵送可)

【出願期間】
・8月第1週の月曜日から最終週の金曜日まで必着(郵送の場合は書留郵便で)

【提出書類】
・受験願書
・顔写真2枚(縦6p〜8p、横4.5p〜6p)
・筆記試験免除申請書(前年の筆記試験合格者のみ)
・受験手数料(6800円分の収入印紙)

【試験日程】
・筆記試験 09月最終週の金曜日(9時から17時の間で6時間10分)
   合格発表 10月最終週の金曜日(WEBで。口述の案内は翌日届く)
・口述試験 11月最終週の月曜日(10時から17時の間で15分間)
   合格発表 12月第2週の金曜日(官報とWEBで。合格証書は翌日届く)

【試験会場】
・筆記試験 各地方運輸局及び内閣府沖縄総合事務局
・口述試験 国土交通省本省

【出題内容】
・18科目220問

【合格基準】
・60%(受験者の正答率が60%を超える場合はその数字)

【実施状況】
・受験者数(欠席除く)  300〜400人
・筆記試験合格者数        120〜200人
・口述試験合格者数        120〜150人
・合格率(直近5年)      39.6% 38.3% 30.6% 37.7% 39.6%

近年は少々難化しており合格率は40%弱で推移しています。
が、5年に一度は50%を超えるので今年あたりは易化しそうなふいんきです。


5 さあ、挑戦しよう

さあ、どうでしょう。
その気になってきましたか?
前述のように、受験にはそれなりの覚悟が要ります。
残暑の厳しい9月からおよそ3ヶ月。
その間に100時間を確保しなくてはいけません。
100時間!
ドカタでも100万円、ソープ嬢なら200万円は稼げる時間です。
でもね旦那、法律家ですよ法律家!
たった100時間で法律家!
あなたも海事代理士を目指してみませんか。

次頁ではその勉強法について説明します。
珠玉の学習法を伝授しましょう。


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